姫鶴一文字

越後(えちご…新潟県)の虎・上杉謙信(うえすぎけんしん)が、一振りの太刀を手に入れた。茎には「一」の文字しか切られておらず、作者はわからないが、品よく美しい。しかし、どうにも長さが中途半端で具合が悪い。そこで、馬上で扱うのにちょうどよい長さに磨り上 げる(短くする)ことにした。

上杉家の腰物係(こしものがかり…刀剣管理役)から磨り上げを命じられた研ぎ師は、「謙信公からお預かりした大切な太刀。何かあったら一大事」と、その夜は太刀を寝床に持ち込んで抱いて寝た。 研ぎ師は夢を見た。美しい姫君が、こちらをじっと見据えながら、「どうか私を切らないでください」と、涙ながらに懇願している。夜が明けて、研ぎ師は、「おかしな夢を見たものだ。あの姫君は、ひょっとするとこの太刀か。いやいや、まさか。でも、やはり……」 納期までにはまだ日があることを理由に、その日の磨り上げの作業は中止した。 そして、その日の夜も、太刀を抱いて眠ることにした。すると、またも夢の中に、昨夜の姫君が現れた。

「どうか私を切らないでください」
「そなた、名は何と申す」
「鶴と申します」

そう言うと、姫君は消えていった。二晩も続けて同じような夢を見たとなれば、 知らぬ顔して磨り上げることはできない。腰物係のところに行って、夢の出来事を話して聞かせた。半信半疑の腰物係だったが、ものは試しと、その晩、太刀を抱いて寝てみることにした。するとやはり、夢の中に美しい姫君が現れて、「どうか私を切らないでください」 と言うではないか。

これはただ事ではないとして、磨り上げは中止となった。そ して、姫君の名にちなんでこの太刀を、「姫鶴一文字(ひめつるいちもんじ)」と呼ぶようになったという。現在は、重要文化財に指定され、山形県米沢市の上杉博物館が所蔵している。

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